- 我々の明日はどっちだ -
ベルと共に部屋の扉を開けたとたん、思わず「おお」と感嘆の声が漏れた。
部屋の調度品の数々は屋敷の雰囲気に見合うそうとう上等なものらしく、いたるところに凝った装飾が施され、ファブリックもいちいち刺繍で飾られていた。
幸いにしてメンバーたちが寝泊まりするゲストルームは(多少のほこりっぽさはあるものの)ベッドや家具は問題無く使えそうだ。
「よかった、部屋はエントランスみたいな有様じゃなくて」
「管理人っつっても爺さん一人だからね。こんな広い屋敷のメンテナンスなんか無理だよ」
「へぇ、さすがにベルはこの屋敷のこと知ってたんだ」
「知ってるっていうか……」
ベルは何故だか怪訝そうな顔をした。普段きっぱりとした物言いの彼女がそんなふうに口ごもるのは珍しい。
さらに、焦った様子とまではいかないが、戸棚を開けたり、歩き回ってきょろきょろしている。
「何探してんの?」
「灰皿」
完全無欠の女王、唯一の欠点は重度のニコチン依存症であることだ。
呆れていると廊下の外からダニエルの声が響く。
「荷物置いたやつは廊下に集合!」
扉から顔をだすと、他の部屋のメンバーたちも自分と同様に部屋の中から顔を覗かせ、やがてぞろぞろと廊下に出てきた。
「では、リーダーからお前らにミッションを授ける」と、廊下の真ん中でメンバーに囲まれるダニエルが、わざとらしく咳ばらいをする。
「掃除するぞ!」
「やっぱり掃除かよー!?」
ジャグが不満そうに声を上げる。モーゼス、マシュー、ライオネルはやっぱりなとでも言うように肩をすくめ、双子たちはどうでもいいといった態度だ。
エントランス脇にあるワードローブが掃除用具入れになっていたらしく、全員でぞろぞろとその中の掃除用具を手に取る。
滞在期間中にある程度綺麗にできればいいとのお達しだったが、11人で手分けするとしても屋敷はあまりに広すぎる。
「期間中には終わらないと思うんだけど?」
「まぁそう言うなよ、サリー。これは他のやつらには内緒だが、特別手当が支給されるから頑張ろうぜ」
「……」
言うだけ言って、ダニエルはモップ片手に階段を昇っていった。
私には分かる。こういうときは大抵何か隠し事がある。
そして、それが伝達されないのは「伝達する必要が無い」か「本人に確証が無い」のだ。
ふぅ、とため息をついて、エントランスの落ち葉を掃き出しにかかった。
