- 向けられるまなざしの意味をかんがえたことはあるか -
サリーと一緒にエントランスの砂埃や枯葉を掃いていた。
ベルは定期的に舌打ちをしながら、壁にかかった燭台やインテリアを置いていたであろうコンソールテーブル、マントルピースのほこりをはたきで払っている。
ベネットとマイカは階段の掃除に着手しており、ダニエルは3階へ、マシューとモーゼスは2階へ、それぞれ掃除道具を持ちながら上がっていった。双子は多分探検に出かけたんだろう。あーあ、俺もついていけばよかった。
ざっざっざっと掃いていった塵芥の類はそこそこ大きな山となった。
「塵取りじゃ頼りないねぇ。ベネットー!車にゴミ袋って積んでたー!?」
「あるある!トランクの中に入ってる!」
「ふぅん。ジャグ、取ってきて」
「りょーかい。ベネット、鍵ー!」
ベネットが階段から投げ渡してきた鍵を見事キャッチし、早速外に出た。
トランクにはベネットの言う通り、大容量のゴミ袋が積まれていたため、全部屋敷の中に持っていくことにした。
バタンとトランクを閉じ、車にロックをかける。
ふと、屋敷の周りに生えている草木に目をやった。この寒さで、ほとんどが枯れている中、ひとつだけ実を付けているものを発見する。
「ハックルベリーかな?」
光沢のある黒々した実を指でつまむ。
でも、一粒ではおやつにもならない。何より寒かったし、急いで屋敷に戻った。
「サンキュー、ジャグ。あたしはこいつらを詰めておくから、2階と3階にいる連中にいくつかゴミ袋届けてやって」
「あいあいさー」
単純に掃除しているよりは、行ったり来たり身体を動かす方が楽だ。サリーの指示に特に不満を漏らすこともなく、まずは2階の廊下を掃除しているマシューとモーゼスに1枚ずつゴミ袋を渡す。
「なんか面白いもんあった?」
「今のところは別に。ただ、そこの部屋は談話室らしくて、まだ入ってないけど、もしかしたら何かあるかもな」
マシューは客室の廊下のT字になっている突き当りのドアを指さす。
モーゼスは黙々と壁に取り付けられたランプを磨いていた。
3階に上がると、廊下に扉が2つあり、手前のドアが開いていた。
入ると一面の本棚と、大層立派な書斎机があった。ダニエルは窓を開けて換気をしている。
「よお、ジャグ。どうした?」
「ゴミ袋のデリバリーだよ」
ダニエルにゴミ袋を一枚渡す。
「なんか手伝おっか?」
そう問いかけると、ダニエルはうーん、と指をあごに当て、何か考えているようだった。
彼は上着の内ポケットから鍵束を取り出してこちらに手渡してきた。
「これがマスターキーなんだけど、一階の鍵かかってる部屋開けてきてくれるか?鍵束はそのままお前が持ってていいから」
ダニエルが指さした、瓶のふたを開ける栓抜きのような装飾がついた鍵を指でつまむ。さっさと一階に降りると、サリーが声をかけてきた。
「ジャグ、これ外に撒いてきて」
「えっ、撒くの?」
「庭の隅にでも撒いておけば養分になるんじゃない?」
エントランス中の落ち葉がたっぷりと詰まったビニール袋を手渡される。
(まあいいか、他の部屋に今すぐ入る用事なんてないだろうし)
見た目よりずっと軽いそれを持ち上げて、再び屋敷の外に出た。
前庭は枯葉だらけなのだから、どこに撒いても同じだが、一応庭の隅にバサッと撒いておいた。
見上げると、向かって右に先ほどダニエルが窓を開けていた部屋が見えた。
なんとなく左の方にも目をやる。立ち入り禁止と言われた西館の3階だ。すると、カーテンの向こうにうっすら人影が見える。女性、のように見えた…ベルだろうか。
「おーい!そっち危ないんじゃないのー!?」
人影は何の反応も示さない。ほんの少しだけ、ゆらりと動いているようだが。
「おーい!!」
もう一度呼びかける。
やはり反応は無い。
念のためもう一度呼びかけようと息を吸い込んだとき、玄関のドアがぎぃいと音を立てて、中からベルが出てきた。
煙草に火をつけている。
「どうしたー?」
やがて、窓からダニエルが顔を出した。
ダニエルとベルを交互に見比べて、再度西館3階の窓に目をやる。
人影はもうなくなっていた。
「……なんでもなーい!!」
強く風が吹き、その冷たさに大きく身震いする。
俺は急いで屋敷の中に戻った。
