The travelers – Day.2

- 悪意か、狂気か -

スマホにセットしたアラームが鳴る。

ベルベットのカーテンが受け止めた朝陽が、小さな虫食いの穴から部屋に零れ落ちた。移動や、掃除という肉体労働の疲労感もあり、夕べはぐっすりと眠っていたようだ。

客室に備え付けられた簡易的な洗面所で、目覚ましがてら顔を洗う。水はキンと冷たく、一気に目が覚めた。

……気になっていることがある。

わざわざこんな時期に、わざわざ大人数のチームに郊外の屋敷のメンテナンスをさせること。しかも報酬付きで、一人当たりの報酬額も破格。何か重要な「ブツ」をこの屋敷に保存しているという話は届いていない。要件としては、「とりあえず管理人不在の一週間を屋敷で過ごしてもらえればいい」とのことだったが……。

(やっぱり、あれか?)

数日前、チームの一員であるライナスを本社に預けに行った際、チーフエンジニアのマクシミリアン(通称:Dr.Xi)と話す機会があった。マクシミリアンには「泊まり込みで屋敷のメンテナンスに」と伝えたら、興味ありげに「あー、あそこの幽霊屋敷ね」と苦笑いしていた。

(そんなまさか)

頭に浮かんだくだらない妄想を振り払う。

昨日、この屋敷の事情を探ろうと掃除のついでに書斎をひっくり返す勢いで探った。

分かったことといえば、イギリス英語で書かれている書籍が多いことから元の持ち主はイギリス人であるということ。夏のバカンスを思い出して口の中が少し苦くなるような感じがした。

そして、そのイギリス人の名前は「ジョージ・スコット」であること。これは複数の蔵書のサインにあることから間違いないと思われる。蔵書は戦前に発行されたものが多いため、20世紀初頭生まれで開戦前にここに移り住んできたと考えてよさそうだ。日記のようなものがあればもっとよかったが……。

蔵書のジャンルは経済学や経営学、金融に関するものが多いため、なんらかの事業の経営者であるか、イギリスの事情を踏まえるなら貴族という線もある。まぁこんな大きな屋敷を所有していたくらいだから相当裕福だったことは間違いない。

土地の権利書は恐らくどこぞに隠された金庫か、または本社に写しが保管してあるはずだ。

顔をタオルで拭う。

動きやすいジーンズとニットに着替えて部屋から出ると、かすかにバターを溶かす匂いがした。

気になっていることは、実はもう一つあった。

昨日夕飯をとったバー、見取り図ではもっと広かった。具体的には、隣の部屋と繋がっているような。

流線型の階段を下りて、ダイニングを通り、昨日のバーの部屋の扉を開ける。

するとどうだろう、バーの向かい側の壁が無くなって、見取り図通りに隣の部屋と繋がっているではないか。

キッチンスペースから、マシューが「おはよう、ダニエル」と声をかけてきた。手元では鮮やかな色のオムレツがじゅうじゅうと音を立てている。

昨晩壁があった場所にはモーゼスが立っており、隣の部屋を見ていた。

「おいおい、どうなってんだこりゃ」

「あ、ダニエル。実はこれ」

モーゼスが指さした先には小さなハンドルが付いていた。

「これ、なんとなく回してみたら壁……っていうか、間仕切りがシャッターみたいに上がって、隣のプレイルームと繋がる仕組みだったみたいなんだ。ここでパーティとかしてたんだな、多分」

上を見ると確かに仕切りがあるようだ。

隣はダーツボードが壁にかかっていたり、ビリヤード台が2台置いてあった。

こんな仕掛けになっていたとは……。

「……」

「ダニエル?」

見取り図は正しい、ということになる。

で、あるならば、

「今日は宝探しにするか」