The travelers – Day.1

- 俺の名前を呼んでくれよ -

最初の乾杯から二時間。酒を入れるペースが落ち着いてきた頃、ジェーンがうとうとし始めた。

「眠い?」

「うん」

微睡んだ瞳は手元にあるグラスを見ているのかどうかすらわからない。ビールはまだ半分ほどグラスに残っていたが、すっかり泡が無くなってしまっている。

「今日は移動で疲れたんだろ。寝るなら2階行こうぜ」

「うん」

ぐしぐしと目をこするだけで、なかなか椅子から立ち上がろうとしないジェーンの方を抱えるように背に腕を回す。彼女も大人しく首に手を回してきたので、そのまま膝を抱え上げて、横抱きにして強制的に移動させることにした。

さて、二階に行くにはリビングを通って廊下に出なければならない。なるべく騒いでいる連中を見ないように移動しようとしたが、

「あー、ジェーンはもうおねむかぁ」

頼むからリーダーは空気を読むスキルを身に着けてほしい。もちろんわざとなのかもしれないが。そちらに目をやれば”奴”と目が合った。再三酒を煽っているはずなのに、これっぽっちも酔っていない醒めた目。ジェーンとは双子のはずなのに似ても似つかない、『蛇の拷問吏』。

「モーゼスも眠そうだな。お前も、もう二階で休めば?」

ジョンは、まるで何でもないようなトーンでモーゼスに言った。モーゼスは別に酒に酔ったというわけでは無さそうだが(むしろその言葉で酔いが醒めた気がするが)、朝からの移動の疲れが出始めているようだ。何より、ジョンの言葉の強制力に動かされやすい。空気を読むスキルが高すぎるのも考え物だなと思った。

「はいはい、寝そうなやつは今のうちに上に行っとけー!」

囃すように笑顔で手を叩くダニエルに尋ねる。

「そういえば部屋割りって……」

「割らねーよ!雑魚寝スペース作ったからそこで寝な!」

本当にこのリーダー信じらんねえ。

二階に上がると、まず目の前にトイレ、右に洗面台。左の方に二部屋、鍵のついた扉の部屋とリビング。鍵のついた部屋は開かなかったので、リビングの扉をモーゼスに開けてもらった。

背の低いソファーベッドが広げた状態で置いてあった。なるほど、大人三、四人であればこの上で寝られるだろう。

とりあえずジェーンをそこに下ろして、ソファーの横に積まれていたタオルケットをかけてやる。

リビングからはさらに二部屋に続く扉があるようだ。

扉を開くと、それぞれ男性陣の荷物が置いてある部屋、女性陣の荷物が置いてある部屋だった。

「寝るスペース足りなくねぇか?」

「俺一階にソファーベッドの部屋用意したし、そこで寝るんじゃねえの」

「マジか……」

モーゼスは早々にソファーに横になったので、俺もジェーンの隣に寝転がった。

「なぁモーゼス、俺とジェーンが」

「勘弁してくれ。ここで始めんなよ」

切り出す前に断られてしまった。自分が気まずいのもそうだし、ジョンのことも怖いのだろう。今夜は甘んじておあずけをくらってやろう。バカンスも良いが、この状態が長く続くことは我慢できそうにない。

すやすやと寝息を立てるジェーンのまぶたにキスをしたとき、口から漏れた名前は聞こえなかったことにした。