– 口は一つで耳は二つ。喋るよりは聞くに徹するが吉 –
カシャッ
シャッター音に振り向くと、一丁前にカメラを構えたダニエルがそこにいた。
現代の一眼レフよりも角張ったそれは、経年劣化のためか、元々は黒であっただろうボディは白く細かいひび割れが入り、銀色だったと思われるフレームも曇っていた。
「何それ?そんなカメラ持ってたっけ」
「さっき見つけたやつ。すげぇ古い!」
「ふーん」
得意げなダニエルをよそに、大量の蒸かし芋をマッシャーで押し潰す作業に戻る。先ほどまでダイニングのテーブルにかけていたマイカが、シャッター音につられてキッチンに入ってきた。そしてダニエルの手にしたカメラを見るやいなや、感心したような表情を見せる。
「ライカじゃん」
「お、さすがマイカ〜。わかっちゃう?」
「ちょっと見せてよ」
マイカはダニエルからカメラを受け取り、くるくる回して眺めたり、構えたりしている。
「ライカIIIa」
「へぇ。どのくらい古いの?」
「第二次世界大戦よりちょっと前に発売された型だから、えらい骨董品だぜ。ちゃんと撮れてんのか?」
「さぁ……それは現像してみないとなぁ」
マイカがダニエルに向けてシャッターを切る。満足したらしく、カメラはダニエルに返した。
「ところでマシューは何してんだ?」
「見て分かれよ。マッシュポテト作ってんの」
「マシューだけに」
「つまんねぇこと言ってんじゃねぇぞ」
ようやく芋のかたまりが消えたので、牛乳を少しずつ加えながら火にかけた。芋がなめらかになったところで、バターを投入する。食欲をそそる香りがあたりに広まった。
「お前ら見てて楽しいの?」
「いや、料理番組みてぇだなと思って」
「あっそ、もうできるから他の奴ら呼んできてよ」
マイカがリビングの方にいる連中を呼びに行ったとき、ふと気になったのでダニエルに問いかけた。
「どこにあったんだよ、そのカメラ」
すると、それに答えることなく、口元だけ笑ったダニエルは、再び俺に向けてシャッターを切った。フィルムには訝しげな顔をした俺の顔が焼き付けられたに違いない。
少なくとも、一日以上生活していて、目につく場所にそんなものは無かった。ついさっきまでTRPGのGMをやっていたやつが、何かの拍子に見つけられるものだとは思えない。
ただ、ダニエルが“口元だけしか笑っていなかった”ので、それ以上は聞かないことにした。
