– 眠れない夜は、ほんの少しの抱擁を –
レオンと灰皿が到着してからというもの、リビングが急に煙たくなった。一応窓は開けていたが、皆が一斉に吸い出すものだから換気が追いつかない。私は夕食まで2階に避難していた。
夕食が終わり、シャワールームの脱衣所でジョンに身を寄せた。
「たばこ臭い」
「ごめんって」
「いいよ、別に」
ずっとリビングにいた片割れにも煙草のにおいが染み付いている。
今はバカンス中だが、家にいるときのように服を脱がせ合い、家にいるときのように蛇口をひねった。山の地層によって濾過された水は、澄んでいて冷たい。その冷たさに身を震わせ、ジョンに抱きついた。冷たい水と、酒のおかげで火照った熱い肌で、なんだか妙な感じだ。やがて、シャワーから流れる水が湯になると、家にいるときのように2人で身体を洗い合った。
「今日は一緒に寝ようね」
「ああ」
昨晩はお互い別の階のソファーベッドで眠ってしまったので、私は明け方に目が覚めたときになかなか落ち着かなかった。
シャワーで体中の泡を落とし、柔らかいバスタオルに包まれる。
「ジェーン、ここにいる間は服着てから出ような。ベルに叱られるから」
「ああ、うん……そうだねぇ」
普段は家にいないが、ベルは躾に厳しい。タオル一枚でバスルームから出ようものなら、きつい雷が落されるに違いない。
「あ、でも替えの服持ってきてない」
「……しょうがない」
ジョンのTシャツを借りて出ることにした。ジョンが上半身裸のままになってしまって申し訳ないけど、「いいから早くパンツ履きなさい」と言われたので、ベルに見つからないように早足で荷物部屋に向かった。2階リビングのソファーベッドでくつろいでたマシューとモーゼスが私を見て吹き出したり驚いたりしていたけど気にしない。
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「ジョン、昨日あんまり寝てない?」
「んー?……うん、盛り上がっちゃって」
「ふぅん」
「なんで?」
「珍しくお昼寝してたから」
「ああ、」
煙草のにおいが流れて来ない2階のソファーベッドで休むことにした。私たちが寝ると言ったら、モーゼスたちは下の階に降りていった。
「なぁ、ジェーン。明日はベネットが川釣りしたいって言ってたよ。一緒に行く?」
「ジョンが行くなら行くよ」
「そう……じゃあ、早く寝ような」
「うん」
そうして二日目の夜、私はジョンの腕の中で眠りについた。
……ほんの少しの時間、その腕が私を放してどこかへ行ったのは、夢だったのだろうか?
