The travelers – Day.3

– 別段誰かが悪くなくても、上手く行かないこともある –

ライオネルとマシューが庭に物干竿を出し、11人分の洗濯物を次々と掛けていく。ミントの香りに混じり、洗剤の芳香が夏風によってリビングに運ばれてきた。

サリーとモーゼスは朝食の洗い物を終え、コーヒーを作っている。

ダニエルは、ライカのフィルムを巻き、家の中の適当なものを写真に収めている。

コーヒーが出来上がるまでの間、暇だったのでTRPGのルールブックをぱらぱらと捲っていた。アメリカの作家が生み出した架空の神話体系を絡ませたホラーゲーム。元のクトゥルフ神話がコズミックホラー(宇宙的恐怖)というだけあって、登場する神々も天文学的スペックを持っており、もはやその凄さがどれほどのものか分からない。

洗濯物を干し終えたライオネルとマシューが家の中に戻ってきた。

「お、ベルもやってみる?」

「やらない」

「なんだ」

そこまで残念でもなさそうな感じで、マシューとライオネルはソファに腰掛けた。
ちょうどコーヒーも出来たようで、盆に載せた6つのカップとシュガースティックをサリーが持ってきた。その後ろから、モーゼスもミルクとガムシロップの袋、残り少なくなったチョコレートが載った皿を持って来た。

「モーゼス、サリー、ありがと」

ミルクを1つとシュガースティックを1本入れて、スプーンでかき混ぜる。

「アイスのがよかったかな?」

「いいよ、朝は涼しいし」

モーゼスはシュガースティック1本、マシューとライオネルはブラック、サリーはシュガースティック1本とミルク、ガムシロップを1個ずつ。ダニエルもソファに座り、ブラックのままカップに口を付けた。

「昼飯なににすんの」

「川釣り組の成果によるかな。フライがいいかなと思ってるんだけど……」

マシューが話していると、外がばたばたと騒がしい。複数人の声と足音が近付いてくる。

「あいつら帰ってきたのか?」

「早くね?まだ2時間経ってないぜ」

ライオネルが玄関の扉を開けにいき、そして血相変えて再びリビングに入ってきた。

「ジョンが怪我してる」

「えっ」

その言葉を反芻する暇もなく、ベネットに担がれたジョンがリビングに入ってきた。タオルで止血はしてあるものの、運んできたベネットのTシャツに染み付いた血がその出血量を物語っている。

「モーゼス、お湯持ってきて!」

「わ、わかった!」

ソファの場所を空けてやり、ジョンを座らせた。ダニエルは棚の下段から救急箱を取り出す。
モーゼスから湯を張ったボウルと真新しいタオルを受け取ったジェーンが傷口を拭い、救急箱の中に入っていたガーゼを傷口に当て圧迫し、再度止血をする。包帯を少しきつめに巻いて、処置を終了した。全員が胸を撫で下ろした。

ダニエルがベネットをじろりと睨む。

「怪我は厳禁っつったんだけどなぁ」

「事故だよ、ちょっとした事故」

「わかった、わかった。事情は後から来る2人にも聞く。ジョンは上で休んでろ。……ジェーンも」

一瞬騒がしくなったリビングは、水を打ったように静まり返った。ジョンはジェーンに連れられ、2階へと上がっていった。

「ベネット、それ洗っといてやるよ」

マシューはベネットから血まみれのTシャツを受け取って、洗面所へ。ベネットはシャワールームへ。モーゼスはボウルを台所にやったあと、「マシュー、これもついでに」と傷を拭ったタオルを持って洗面所へ向かった。サリーはボウルの湯を捨て、水ですすぐ。ライオネルは救急箱の片付け。ダニエルは大きめの溜め息を吐いてソファに座り直した。

ふと、外を見ると、晴れるかと思っていた空は白く分厚い雲に覆われつつあった。

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「マイカのせいじゃないよ」

「……ああ」

「今日、雨降るかなぁ」

「どうだろう」

「帰ったらさ、魚の捌き方教えてもらおうぜ」

「……うん」