– 0と1の方がよっぽど信用できる –
「ライナス、昼ご飯の時間!」
生意気な年下の友達──パティにヘッドホンを取り上げられ、俺は昼食に行くべく腕を引っ張られていた。
「今日は何食べる?」
「ライナスが好きなベーグルの店、場所移動したんだよね。オフィスにちょっと近くなった!」
「じゃあ、そこで」
パティは矯正器具のつけられた歯を見せ、ニッと笑った。
チームのメンバーたちがバカンスに行くというので、俺はそれを断って“本部”でエンジニアとしてアルバイトをすることにした。というわけで、昨日からここで働いている。
「僕、ハムチーズエッグとアイスティーストレート」
「俺はサラダ&チキンとオレンジジュース」
「オレンジジュースぅ?」
「糖分大事」
注文したベーグルとドリンクの載ったトレーを持って、窓際のカウンター席に並んで座った。
「やっぱりライナスがいると仕事がサクサク進んで楽しい。ずっと本部にいればいいのに」
「でも、俺はダニエルのチームで仕事するの好きだからなぁ」
「チームの仕事って何やってるの?」
「こことあんまり変わらないよ。シス担」
ベーグルを頬張りながら話す。
チームでの仕事は、ネットワークとシステムの管理。本部を通じて割り振られた仕事の依頼メールの処理、サーバーの監視、あとは趣味と実益をかねたハッキング&クラック。
「そうだ、こないだライナスとXiが開発したプログラム見せてもらったよ。すっごいクールだった」
「ああ、あれ?いいでしょ」
「あれってAIもライナスが作った?セキュリティソフトのアップデートとか自動で検知して情報収集するんでしょ」
「セキュリティを判別する部分は俺が作ったけど、学習機能はXi。怖いよねぇ」
「いいね。自発的なクラックはしないけど弱点をいち早く見つけてくるプログラム。名前は……リベレーターだっけ?」
「そう。“システムの脆弱性を解放する”から“Liberator”」
パティは口角を上げて、ちょっと足をぱたぱたさせる。ワクワクが止まらないといった印象だ。
大学を飛び級するほど賢すぎた少年は、同年代の少年少女たちとは相容れなかったが、この組織で俺やXiといった人間に出会い、その好奇心を毎日の仕事に注ぎ込んでいる。俺のことを分かってくれるのはライオネルをはじめとするチームの皆だが、正直なところ、話が一番合うのはやっぱりパティのような0と1に生きている人間だ。そこには性別も年齢もない。
「仕事終わったら僕の部屋でゲームしようよ。スプラトゥーンの新しいやつ買ったんだ」
「いいね!俺、スプラトゥーンやったことない」
「教えてあげる」
バカンス中のチームのことも多少気がかりだったが、何かあったところで俺に出来ることなんてたかが知れている。
今は気の合う友達と過ごす時間を目一杯楽しもうと思った。
ふと、手首にバイブレーションの振動を感じた。
スマートウォッチからメールを確認する。ダニエルへの案件だ。
「……」
「ライナス、どうしたの?昼休み終わるよ」
「え?……あ、うん、ごめん。帰ろう」
一応スクリーンショットは残して、メールを削除した。
ダニエル、だいぶ“ヤバいドメイン”からのメールじゃん。あとで問いただしてやるから覚悟しとけよ。
