The travelers – Day.4

– 美味しいことは良いことだ –

昨晩から降り続く雨は、今朝も同じくらいの弱さで街を濡らしていた。
じめじめとして気温が上がりきらない中、街へと下る車の中はクーラーのおかげで少し肌寒いくらいだ。

「チーズにハムにサラミ、ザワークラウトはまだ半分くらい残ってるから……」

助手席のジャグがリマインダーを指折り確認する。

「晴れてたら手分けしたけど、傘も無いし皆で固まって動いた方が良さそうだな」

「ああ、そうだねぇ」

会話が途切れる。

カーラジオから流れる落ち着いたカントリーミュージックと、打ち付ける雨の音が何とも言えない寂しさを醸し出していた。
昨日、ジョンが怪我をしてからというもの、この2人はいつもより口数が少ない。マシューが釣果で作ったフォレレ・ブラウ(ドイツの魚料理:マスのスープ煮)も、一晩で無くなることはなく、今日の昼にようやくなくなりそうと言った具合だ。

「明日には雨も上がるって話だけど、今日いっぱいは降るみたいだね」

「マジかよ。洗濯もんどうすんの?」

「乾燥機あったけど、あれ動くのかなぁ?」

生乾きで臭くなったらやだなぁ、とジャグが唇を尖らせる。

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片田舎に大きなマーケットは無く、個人商店を回って食糧を調達した。
ハーブの練り込まれたヴァイスヴルスト(白いソーセージ)、スパイスの効いたサラミ、クラッカーに付ける用のクワルク(フレッシュチーズ)、大きな塊のベーコン、あと野菜と卵、柔らかくパンのようなプレッツェル。

痛みそうなものはクーラーボックスにしまって、菓子類の調達をすることにした。

「あっ、そういえばバウムクーヘン食べてなくね!?」

多くの食べ物を目にして、やっと本来のテンションを取り戻してきたのか、ジャグが目を輝かせながら通り沿いのバウムクーヘン専門店を指差す。

「寄ってみるか」

と、マイカが店の扉を開けた。
甘い香りに包まれる。

店の棚には糖衣でコーティングされたものや、チョコレートでコーティングされたもの、切り分けられたや丸ごと売られているもの、様々なバウムクーヘンがあった。
気の良さそうな店主と、その奥さんと思わしき女性が「いらっしゃい!」と迎え入れてくれた。

「うわぁ!どれにしよう〜!」

ジャグは早速、カウンターのガラスケースに張り付かんばかりの勢いでバウムクーヘンの品定めを始めた。

横目でマイカを見やると、あまり楽しそうではないようだ。

「……アンタはまだ元気出ないんだ」

「え?……ああ、」

「昨日のこと、気にしてんの?」

「うん、まぁ……」

「もうよしなさいよ。ジェーンは何ともなかったし、ジョンも怪我したけど普通だったんでしょ?」

「ジョンは……そうだけど、今朝までジェーンと喋ってないんだ。タイミング掴めなくて」

「……」

たしかに、ジェーンは昨日から殆どジョンに付きっきりで、今日の買い出しにも参加してない。

1人で話していたのに反応がなく、怪訝に思ったジャグがこちらを振り返って手招きした。

「2人もこっち来てよ。一緒に選ぼう。いくつ買う?」

「丸ごとのやつ2つってとこかな。ジャグ、お前が選んでいいぜ」

「……」

一緒に選ぼうと言ったのに断られたことに気を悪くしたのか、ジャグは眉をひそめる。だが、一瞬で表情を作り直し、店主の方に向き直った。

「とびっきり美味しいやつが欲しい!2つ!」

「とびっきり美味しいやつ……?」

「そおー!こいつ友達と喧嘩しちゃったんだけどさ、一緒に食べて仲直りできそうなやつ!」

店主が目を丸くしているところに、ジャグがマイカを指差す。マイカが「おい、ジャグ!」と慌てて肩を掴むが、カウンターの奥の女性が「まあ」と笑った。

「うちの人もね、仲直りのときはバウムクーヘンを焼くのよ」

「お、おい、お前、お客さんの前だぞ」

「いいじゃない。友達と仲直りできるといいわね。私のオススメはこれ」

奥さんはホワイトチョコレートが薄く塗られ、コーティングされたバウムクーヘンを指差した。店主も、やや恥ずかしそうな感じでいた。

「ううん……」

「貴方、いつも焼いているやつでいいじゃありませんか」

「そ、そうか。私がいつも焼くのは……」

指差したのは、プレーンのシンプルなバウムクーヘン。ただ、他の品より一回り分厚い。

「じゃ、それを1つずつ!」

満面の笑みで注文するジャグに、奥さんも、店主も、私も、マイカも、皆つられて笑った。
丁寧に品物を包んでくれた2人が、店の入り口まで見送ってくれた。店主はマイカの目をまっすぐ見つめる。

「下手でもいいから、自分の気持ちを伝えたらいいんだぞ」

「ど、どうも」

「ちなみに、俺のバウムクーヘンはこのへんで一番美味いからな、謝るときに成功する確率は……」

「確率は……?」

神妙な顔の店主に、マイカは思わず息をのむ。

「十割だ!」

パッと明るくなる周囲に、また笑いが起こった。

「知ってた!だって美味しいものは無敵だもんね!2人ともありがとう!」

ジャグの言葉に、店主は親指を立てて答えた。
車にバウムクーヘンを積み込み、私たちもそれぞれ座席に座る。車内はあの店内と同じように、甘い香りで包まれた。次は、ラム酒のチョコレートを買いに。

今日の皆は、なんだか上手くいきそうな気がした。