– 裏切りの報酬には、それ相応のメリットを –
買い出し部隊が戻り、4日目の夜を迎えた。
結局、洗濯物は荷物部屋にロープを張って干されることになった。幸いにも、ベルが解放した物置部屋にサーキュレーターがあったので、その風を当て続けることにした。明日の朝には乾きそうだと、ライオネルとサリーは一先ず安心した。
ジョンが引っ張りだしてきたDVDが、1階のリビングで流れっぱなしになっている。夕食は一日目と同様、カルテス・エッセン(冷たい食事)だったが、マシューはその片付けもそこそこに、5日目から最終日にかけての料理の仕込みをしている。それをモーゼスが傍らで見ていた。
ジェーンはジャグとマイカから“プレゼント”されたバームクーヘンに、大いに機嫌を良くし、キッチンにケーキナイフを取りに来た。
そして、
「全員集合!」
キルシュヴァッサーと空のビアグラスをリビングのテーブルに置いたベネットが、2階まで響く大声をあげる。
その声に、なんだなんだとメンバーたちが次々に集まってきた。
空のグラスとキルシュヴァッサー、そして手元でトランプをシャッフルするベネットを見て、これから起こることをいち早く察知したベルが顔をしかめる。
「ゲームをしよう」
よく切られたトランプがグラスの周りにドーナツ状に置かれた。
「“キングスカップ”ね。いいんじゃないの」
ジョンが大して真面目に見ていなかったDVDを止めて、テレビを消す。次々とメンバーが円状に座り始める中、ジェーンだけは何が何だか分からないと言った様子である。そんなジェーンを、マイカが手を引いて隣に座らせた。
「ねぇ、マイカ。キングスカップって何?」
「ドリンキングゲームだよ。トランプを引いて、書いてある数字にしたがって、グラスに注いである酒を飲むんだ」
「数字に従って……?」
「たとえば、俺が1を引いたら、俺以外の皆がグラスに入ってる酒を一口ずつ飲むんだ。他にも色んなルールがあるから、その都度教えてやるよ」
ベネットがビアグラスの1/3くらいの位置までキルシュヴァッサーを注ぐ。
「アンタ、まさかこれやるためだけにキルシュヴァッサー買って来させたの?」
「ご明察。これならアンタも飲めるだろ」
嫌な顔をするベルに怯むことなく、キルシュヴァッサーの蓋を閉める。頭を抱えるベルの左隣で、ダニエルが面白そうだしいいじゃんと笑った。
既に夕食時にビールやワインを各々入れているせいもあり、半分酔っている状態からのスタートとなった。
「で?誰から引く?回り方は?」
「クロックワイズ(時計回り)で。ジェーンがルール知らねぇから、ジェーンが最後になるように……隣のマイカからだな」
「俺かよ。別に良いけど」
マイカ→ジャレッド→サリー→ライオネル→ベネット→ベル→ダニエル→モーゼス→マシュー→ジョン→ジェーンという順番になった。
まずは、マイカの手番。
自分の手前にあるカードを引いて裏返した。カードはダイヤの『2』
「2は“For YOU”。指名した1人に飲ませる。っつうわけだベネット、まずは言い出しっぺが飲めよ」
マイカがジェーンにルールを説明しつつ、ベネットを指名した。ベネットはグラスを手に取り、一口飲んで縁の中央に戻す。
「さすがに40%だけあるな……次、ジャレッド」
「オッケー」
札を引き、裏返す。スペードの『8』。手に取ったカードをひらひらしながら、ジャグはジェーンに説明する。
「8は“Drinking Mate”。MateとEightの発音が似てるからだよ。このカードを引くと、俺はグラスから一口飲まないといけないんだけど、一緒に飲む人を指名できるんだ。ねー、マシュー」
「……それは俺を指名ってこと?」
「うん」
「マジかよ……」
ジャグが一口グラスから飲んだ後、マシューが受け取って一口飲む。マシューがグラスをテーブルに戻すと、ジャグが再びジェーンに「ちなみに!」と向き直る。
「これから俺がなにがしかでグラスを貰うときは、マシューも俺と一緒に飲まないといけない!」
「え?この後もずっと?」
「うん、この後もずっと!」
楽しそうなジャグに対し、マシューの表情は芳しくない。キルシュヴァッサーの予想以上のアルコールに、先が思いやられたのだろう。
そして次はサリーの手番だった。引いたのは、スペードの『K』
「キングは“King’s Rule”。カップに好きなだけ好きな飲み物を注げるのと、次に誰かがキングを引くまでの追加ルールを決められる」
サリーはキッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、今カップに入ってるキルシュヴァッサーの半分ほどを注いで水割りにした。何人かが安堵したような顔をする。
「次にキングが引かれるまで、人の名前を呼ぶの禁止。あ、そうだ、ちなみに4枚キングが引かれたらこのゲームは終わりね」
サリーがそう言いきる前に、ライオネルが次の札を引いた。カードはハートの『6』
「6は参加者の男が全員飲む」
「どうして?」
「“For Dicks”。SixとDicksの響きが似てるから」
ジェーンの疑問の声に答えたのは、ライオネルではなくダニエルだった。それを聞いたジェーンはつぼにハマったらしい。
「Dicks…なるほど、Dicks(ちんこ)ね!」
「ちんこって連呼するのをやめなさい」
ベルがジェーンを嗜めた。
「マシューは俺の分もだから、二口ね」
「はいはい。お前も俺の名前呼んだからふたく……待てよ、お前が飲む二口に俺は更に一口ってことか?」
「ああー、そうなるねぇ」
「テメェわざとだろ……」
「どうだろう?」
にやにやするジャグに、マシューは鋭い視線を向ける。こういったドリンキングゲームが行われる際、大概は酒に弱い人間が集中砲火に遭う。チーム内ではマシューは比較的弱い方なので、よく標的にされるのだ。
満を持して、言い出しっぺのベネットの手番となった。カードはクラブの『K』。早くも2枚目のキングが引かれた。
「名前ルール廃止な。俺は追加ルールなし」
その代わりとでも言うように、グラスの3/4ほどをキルシュヴァッサーで満たす。先ほどサリーが注いだミネラルウォーターを打ち消すように。
「酔わなきゃ面白くねーだろ?」
不遜な顔のベルが札を引く。裏返してダイヤの『7』が出た瞬間、盛大な溜め息を吐いた。
「“For Heaven”。全員が一口ずつ。マシューはMateルールで二口」
「くっ……」
再び濃さを取り戻したアルコールを全員が一口ずつ流し込んでいく。
次に札を引いたダニエルは「悪いね、ベル」と、裏返して数字を見せる。ハートの『4』
「4は“For Whores”。女性の参加者全員」
キッと睨んでくるベルをよそに、ダニエルはモーゼスに次の札を選ばせていた。モーゼスは後が怖いので、なんとかベルに関わらない札を引けるように、と慎重に札を選んだ。引いたのはクラブの『3』
「“For Me”」
まあ、マシューかベルに当たるよりはマシだろう、とモーゼスはカップから一口を飲んだ。
マシューが引いた札はスペードの『Q』。ふと、マシューが顔を上げる。
「なぁ、マイカ。『Q』って何するカードだっけ?」
「Qは……おっと、ダニー、そういや今何時だ?」
「ベル、時計見せて……そういや、お前の付けてるこのカルティエの時計ってなんかシリーズの名前あったよな。なんて名前だっけ」
「……モーゼス、お使いお願いしたワインってどこに置いてあんの」
「え?車の中のクーラーボックス……あ、」
質問に答えてしまったモーゼスは再びカップの中身を一口飲んだ。
「今のって何?」
ジェーンが問いかけると、マイカがこっそり耳打ちする。
「“Question”。引いたやつがクエスチョンマスターになって質問を投げかけるんだけど、答えちゃいけない。無視して別の奴に質問するんだ。もしもモーゼスみたいに質問に答えたり、質問を思い付かなくて黙っちゃったりしたら負け。グラスを一口飲む」
「へぇ!」
感心するジェーンの隣でジョンがカードを引いた。ダイヤの『Q』
「なあ、ジェーン」
ジョンはカードを投げ捨てるようにテーブルの上に置いた。今ルールを聞いたのだから、絶対に引っかかるまいとジェーンは身構える。どんな質問でもかかってこいというような感じだ。
「俺とマイカ、どっちが好き?」
「…………え?」
