The travelers – Day.4.5

– 嫌なことは嫌じゃなくなるまで突き詰めるべきだ –

「モーゼス、ジェーンは?」

「……」

モーゼスは黙ってソファーベッドの部屋の方を指さした。

ジョンに言われたとおりに動くのは癪だったが、ジェーンのそばにはいないといけないと思った。
部屋の前でノックをする前に、深呼吸をして、いざノックしようとしたその瞬間、

勢いよく扉が開いた。

盛大に音を立てて、俺は尻もちをついた。
扉を開けたベル本人は、扉が人にぶつかった感触にたいそう驚いた顔をしていた。

「ま、マイカ!?すまん」

「いや……」

いい年して、顔面に食らった痛みに泣きそうになりながら、差し出された手を取った。
立ち上がって部屋の中を見ると、ベッドの上にペタンと座ったジェーンがこっちを見ている。目元と鼻の頭が赤い。泣いていたのだろう。

ベルと入れ違いになるように部屋に入ると、ジェーンの隣に座っていたダニエルがすっと立ち上がった。

「……急に煙草が吸いたくなってきちゃったなぁ」

へたくそか。

だが文句を言う間もなく、彼は後ろ手に扉を閉めた。部屋の中にはジェーンと俺の二人きりになる。

「……マイカ、鼻赤くなってる」

「ジェーンもだろ」

靴を脱いでベッドの上に乗ると、彼女は両手を広げてくる。

「ハグして」

膝の上に座らせて、壊れないようになるべく優しく抱きしめた。彼女は俺の肩口に頭をのせ、すんすんと鼻をすすっている。

「さっきは、ごめんな。その……」

乱暴な行動で、怖い思いをさせてしまったこと、ジョンと険悪になって不安にさせてしまったこと、昨日ジョンにケガをさせてしまったこと、

言葉に詰まっていると、細い腕により一層の力がこもった。

「怒ってないよぉ……」

ミルクティーみたいな色をしたジェーンの髪の毛に指を絡ませる。

「俺はジェーンのことが好きだから、ジェーンが困るのや傷つくところは見たくない。……たとえジョンでも、ジェーンを困らせるなら許したくない。だから怒った」

「うん……」

「あの質問は困ったよな。だって、ジェーンにとってジョンは特別だから」

「……マイカのこと好きだけど、ジョンは大事だよ」

「分かってる。ジョンも分かってると思う。分かってて、ジェーンを試すようなことをしたのが、俺は嫌だったんだ」

「……うん」

「ジェーンは何が嫌だった?」

肩口に載せていた頭を上げて、ジェーンがまっすぐこちらを見た。瞳には涙が滲んでいる。

「マイカが怒ったのが嫌だった。怒らせちゃったのが嫌だった」

そう言い切ると、彼女は堰を切ったように泣き出した。俺はただ、彼女を抱きしめた。

「もう、怒ってない。ジョンが謝ったから。仲直りしよう」

「うん」

そのままキスをした。
色々しょっぱい。

……。

部屋の外から声が聞こえる。

“ばっか、お前、今良いとこなんだから邪魔すんな”

“でも今の方が絶対良いって!ね、マシュー!”

“いや、俺はお前を止めるために来た”

ダニエルと、ジャグと、マシューの声。

“え!?なんで!?”

とりあえずベッドから立ち上がって、ドアノブに手をかけ、

“いいからほら、戻れって!きっと今から二人で”

「へたくそか!!」

勢いよく扉を開けた。

扉が後頭部にヒットしたダニエルはよろめき、咄嗟に手を差し出したジャグに支えられる形になり、マシューはその2人の奥で苦笑いしたまま佇んでいた。

「ジェーン、バウムクーヘン食べよ!」

ダニエルを支えたまま、ジャグがにっこり笑った。