– 真実を切り取るだけの機械 –
再びライカを持ち出したダニエルが、笑顔のメンバーたちに向けてシャッターを切る。
「あ、そうだ、ベネット。明日また川行きたい!」
「川ぁ?やめとけやめとけ、全然釣れねぇぞ」
「それはベネットだけでしょ」
「はぁ!?馬鹿言うな、川が干上がるくらい釣ってやんよ!!マシュー、“それれ・ぶろー”の準備しとけよな!」
「“フォレレ・ブラウ”な」
「あ、マイカも来てね」
「え、俺も?」
ジャレッドの安い挑発に乗ったベネットの会話が、何人かの明日の予定を勝手に決めたようだ。
「あー、フィルム無くなっちまった」
ダニエルが残念そうにフィルムを巻ききり、カメラから取り出した。
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時刻は午前3時28分。
2階へ上がる階段の向かい側、鍵の“かかっていた”地下室への扉をゆっくりと開け、中へと入る。音がしないよう、ゆっくりと閉めると、中は外界からの光を一切遮る闇の世界だった。スマホのライトを点け、踏み外さないよう慎重に階段を下る。
一番下まで下りきると、また扉があった。スマホのライトを切り、扉を開けると更に黒いカーテン。そのカーテンの下から、暗い赤色の光が微かに漏れている。
カーテンをまくり、そこにいたのはダニエル……と、もう1人の後ろ姿。
「……モーゼス?」
予想外の人物がそこにいたことに、思わず驚いてしまった。モーゼスはハッとしてこちらを振り返った。
「お、きたきた」
「なんでここにモーゼスが?」
「あ、あの、眠れなくて、そしたらダニエルがここに入ってくのが見えたから……」
ダニエルはこちらに目を向けることもなく、現像タンクを上下逆さまにしたり、底を叩いたりしていた。撹拌の最中なのだろう。足元には、昼間買って来たと思われる現像液のボトルが放置されていた。
私は、昼間物置部屋の洋服ダンスの引き出しから見つけたフィルムをダニエルの傍らに置く。
「追加のフィルム」
「OK, そこにネガと印画紙あるから、仕上げてくれ」
「モーゼス、手伝って」
所在無さげにしているモーゼスに呼びかけ、机の上に乱雑に広げられたネガと印画紙を拾い上げた。
「お、俺、現像とかしたことない……」
「プリントは液につけて揺するだけだ。これが現像液、これが停止液、それから定着液。最初は一緒にやろう」
キャリアーにネガをセットし、露光する。
印画紙を現像液のバットに入れて揺すると、像が浮き上がってきた。ドイツの街並のようだ。
「それは俺が現像した奴じゃなくて、元からこの部屋にあったやつな」
「ふうん……」
停止液に入れて撹拌し、そして定着液のバットに入れる。
「それにしばらく漬けたら、あとは水で流すだけだから。分かった?」
「うん……綺麗な写真だな」
「……」
浮かび上がって来たのは、街並、行き交う人々、花屋、大きな教会、一緒に並んで笑う老人と子供、3人組の女性……日常を切り取ったものばかりだ。
ダニエルは現像したネガを次々に吊るしていく。
元々あったネガの写真は残り3枚といったところで、モーゼスが「あ、」と声を上げた。
「これ、戦車だ。すげぇ……」
パレードをする兵隊の姿。引き連れられる鋼鉄の塊。そして彼は、その写真の不自然な画角に気が付いたようだ。
「……なぁ、この写真って」
「モーゼス、明日の夜もここに来いよ」
「え?」
「……興味あったらでいいけど」
さぁ、今日の作業は終わり。とダニエルが切り上げ、モーゼスと私を地上階へ上がらせた。
……部屋から出る前に振り返り、ネガを見つめるダニエルの表情は、部屋が暗すぎてよく見えなかった。
