The travelers – Day.5

– 事実は1つ、真実は無数に存在する –

洗濯物を干し終えて家の中に戻ると、今朝の朝露に濡れたミントを摘んで、輪切りのレモンと一緒に水出ししたミントティーがマシューによって振る舞われた。
そのティータイムもそこそこに、ベルが2階へと上がっていく。
ジェーンとジョンはリビングで猫とネズミが仲良く喧嘩するアニメのDVDを鑑賞中だ。それを横目に、ベルを追いかけた。

2階に上がると、物置部屋の扉が開いていた。暇つぶしの本でも探しているのだろうか。
扉を開けて中に入ったが、中にベルの姿は無い。奥のストレージを覗き込んだが、そこにも彼女の姿は無かった。

その代わり、屋根裏へと伸びる梯子が降りている。昨日は洋服ダンスと本棚に気を取られ、天井に備え付けられた梯子に気が付かなかった。

梯子を上り、上半身を屋根裏部屋にかけ、辺りを見回す。

光が差し込む窓の下、棺のような大きさの長櫃の前で、ベルがしゃがみこんでいる。

「ベル」

呼びかけると、彼女はこちらに振り向き手招きした。
誘われるがままに、そちらへ歩く。

「ライオネル、ちょうどよかった」

「なに?」

櫃の中から、ベルが大きめのケースを取り出した。薄く積もった埃を手でさっとはたき、ケースの留め具を外す。

中に入っていたのは、分解された散弾銃だった。水平二連、銃床は上品なローズウッド、接続部に緻密な彫刻が施されたプレート、そして何より、ガンケースの裏側に印されたロゴマーク。

「ジェームス&パーディか」

ロンドンガンと言わしめたイギリス生まれの至高の一品。貴族はもちろんのこと、ロイヤルファミリーも御用達だった超高級散弾銃だ。

「なんでこんなものが、こんなところに?」

ドイツの片田舎には相応しくない、明らかな異物。
バカンスでここに訪れたというのに、引っ越しした形跡もない生活感を置き去りにした古い家、階段の前にある鍵のかかった秘密の扉、ストレージに押し込まれた本棚の中身。

「ダニエルの案件だ」

ガンケースの蓋を閉めて、ベルが長櫃の中にそれを戻した。

ガンケースが戻された長櫃の中には、色褪せた古い衣服に、大きなピクニックバスケット。
ピクニックバスケットを取り出し、蓋を開けるとそこにはティーセットと食器類がそのまま入っており、「やっぱりな」と思った。この家の主の輪郭が、だんだんと見えてくる。ふと、バスケットの底が不自然なふくらみを持っているのに気付いた。

「……」

二重底をあばくと、一面に敷き詰められた小さな紙袋の群れ。その中の一つを手に取り、開いてみると、パラフィン紙に包まれた“白い粉”。

「粉石鹸ってわけでもなさそうだ」

俺がそう呟くと、ベルは静かに人差し指を立て、唇の前にもっていった。

「それは元の場所に戻して、他の連中には内緒で」

「……そうだな」

ジョンが次の暇つぶしを探しにこないうちに、俺たちは下へと降りることにした。

===

雨は上がったものの、生憎の曇り空。
足元の土はすこし緩んでいるが、俺たちは再び川へ向かった。メンバーは、俺とベネットとマイカ、それからサリーとダニエルだった。

ジェーンとジョンは留守番、マシューはモーゼスと共に昼食の準備、多分ライオネルとベルが洗濯をしている。

しばらく歩いて、ジョンがケガをした例のポイントにたどり着いた。雨のせいか、川は少しだけ水の流れが増し、濁っていた。

ベネットはよっしゃー!と気合を入れてルアーを投げる。
サリーがそこから少し離れたところで、マイカから借りた釣竿を操る。

先日、この辺りに放置してきた空薬莢を見つけ、拾い上げた。泥で汚れていたので、川の水ですすいだ。

「これ」

「空薬莢じゃん。この大きさだとハンティング用じゃね」

マイカが受け取った薬莢を、ダニエルが横から覗き込み、先日のマイカと全く同じことを言った。

「他にも落ちてないかなぁ」

相変わらず怪我は厳禁とのことだったので、スニーカーのまま川に入る。

しかし、この様子では川底をさらうのは絶望的に思えた。

「なんだよ、結構簡単に釣れるじゃん」

サリーはリールを巻き、自分の釣竿にくらいついたカワマスをベネットに見せつけていた。