– 事実は1つ、真実は無数に存在する –
洗濯物を干し終えて家の中に戻ると、今朝の朝露に濡れたミントを摘んで、輪切りのレモンと一緒に水出ししたミントティーがマシューによって振る舞われた。
そのティータイムもそこそこに、ベルが2階へと上がっていく。
ジェーンとジョンはリビングで猫とネズミが仲良く喧嘩するアニメのDVDを鑑賞中だ。それを横目に、ベルを追いかけた。
2階に上がると、物置部屋の扉が開いていた。暇つぶしの本でも探しているのだろうか。
扉を開けて中に入ったが、中にベルの姿は無い。奥のストレージを覗き込んだが、そこにも彼女の姿は無かった。
その代わり、屋根裏へと伸びる梯子が降りている。昨日は洋服ダンスと本棚に気を取られ、天井に備え付けられた梯子に気が付かなかった。
梯子を上り、上半身を屋根裏部屋にかけ、辺りを見回す。
光が差し込む窓の下、棺のような大きさの長櫃の前で、ベルがしゃがみこんでいる。
「ベル」
呼びかけると、彼女はこちらに振り向き手招きした。
誘われるがままに、そちらへ歩く。
「ライオネル、ちょうどよかった」
「なに?」
櫃の中から、ベルが大きめのケースを取り出した。薄く積もった埃を手でさっとはたき、ケースの留め具を外す。
中に入っていたのは、分解された散弾銃だった。水平二連、銃床は上品なローズウッド、接続部に緻密な彫刻が施されたプレート、そして何より、ガンケースの裏側に印されたロゴマーク。
「ジェームス&パーディか」
ロンドンガンと言わしめたイギリス生まれの至高の一品。貴族はもちろんのこと、ロイヤルファミリーも御用達だった超高級散弾銃だ。
「なんでこんなものが、こんなところに?」
ドイツの片田舎には相応しくない、明らかな異物。
バカンスでここに訪れたというのに、引っ越しした形跡もない生活感を置き去りにした古い家、階段の前にある鍵のかかった秘密の扉、ストレージに押し込まれた本棚の中身。
「ダニエルの案件だ」
ガンケースの蓋を閉めて、ベルが長櫃の中にそれを戻した。
ガンケースが戻された長櫃の中には、色褪せた古い衣服に、大きなピクニックバスケット。
ピクニックバスケットを取り出し、蓋を開けるとそこにはティーセットと食器類がそのまま入っており、「やっぱりな」と思った。この家の主の輪郭が、だんだんと見えてくる。ふと、バスケットの底が不自然なふくらみを持っているのに気付いた。
「……」
二重底をあばくと、一面に敷き詰められた小さな紙袋の群れ。その中の一つを手に取り、開いてみると、パラフィン紙に包まれた“白い粉”。
「粉石鹸ってわけでもなさそうだ」
俺がそう呟くと、ベルは静かに人差し指を立て、唇の前にもっていった。
「それは元の場所に戻して、他の連中には内緒で」
「……そうだな」
ジョンが次の暇つぶしを探しにこないうちに、俺たちは下へと降りることにした。
===
雨は上がったものの、生憎の曇り空。
足元の土はすこし緩んでいるが、俺たちは再び川へ向かった。メンバーは、俺とベネットとマイカ、それからサリーとダニエルだった。
ジェーンとジョンは留守番、マシューはモーゼスと共に昼食の準備、多分ライオネルとベルが洗濯をしている。
しばらく歩いて、ジョンがケガをした例のポイントにたどり着いた。雨のせいか、川は少しだけ水の流れが増し、濁っていた。
ベネットはよっしゃー!と気合を入れてルアーを投げる。
サリーがそこから少し離れたところで、マイカから借りた釣竿を操る。
先日、この辺りに放置してきた空薬莢を見つけ、拾い上げた。泥で汚れていたので、川の水ですすいだ。
「これ」
「空薬莢じゃん。この大きさだとハンティング用じゃね」
マイカが受け取った薬莢を、ダニエルが横から覗き込み、先日のマイカと全く同じことを言った。
「他にも落ちてないかなぁ」
相変わらず怪我は厳禁とのことだったので、スニーカーのまま川に入る。
しかし、この様子では川底をさらうのは絶望的に思えた。
「なんだよ、結構簡単に釣れるじゃん」
サリーはリールを巻き、自分の釣竿にくらいついたカワマスをベネットに見せつけていた。
