– 全ての事象には理由があるらしい –
「眠れなかったのか?」
マシューの問いかけに、少し返答が遅れた。
「……なんで?」
「眠そうだから。別に寝ててもいいぜ。昼飯には起こしてやるよ」
鍋の中でぐつぐつと煮え立つ湯に殻の付いたままの卵が投入される。
それから、玉ねぎの外皮を剥き始めた。
いつもいつも、マシューの料理は滞りなく進められる。
それは、道具とか、調味料とか、そういう下準備がちゃんとできていて、彼の頭の中に完璧な完成品が想像されているからだと思う。
時には、俺とか、そばにいるやつに「手伝って」なんて言うけど、それは常に“最適な仕事の割り振り”となっている。
……。
マシューの料理は、ダニエルの仕事に似ている。
入念に下準備されていて、全貌は本人しか把握しておらず、完遂までのルートはいくつも存在する。
今回のバカンスもきっとそういうことであり、皆はそれに気付いている。気付いていて、何も言わない。それぞれ、この件に関しては懸念や疑念を抱いているかもしれないが、誰一人表立って口には出さない。それはリーダーへの信頼の表れだろう。そして、彼が「手伝って」と言えば、“最適な仕事の割り振り”が行われ、皆きっと快く手を貸す。
うちはそういうチームだ。
「マシュー」
「ん?」
昨日の暗室で見た切り取られた景色と、今日の夜に姿を現す写真たちは、きっと、この先の俺の仕事に通じるものだろう。だから、ダニエルは拒むこともせず、俺を暗室へ招いた。
「俺、リビングにいるから」
これも信頼。
「わかった」
誰も見ていなかった。
誰も気が付かなかった。
誰も気にしなかった。
・・・
バケツ一杯の魚を引っさげた奴らがこの家に戻ってくるのは、マシューとこっそりキスをしてから小一時間ほど経った後だった。
