– Epilogue.1 : 彼だけが知っている –
早朝からキッチンは忙しなく動いていたらしく、美味しそうな匂いで目が覚めた。
ジョンを揺り起こして1階に降りると、リビングには切られたサラミ、とろけたチーズがたっぷり乗っているベーコンエッグ、すっかりボイルされたソーセージに、焼いたハム、ザワークラウト、チョコレート類が所狭しと置かれていた。
ソファのところで、何故かモーゼスがライオネルに「なんでお前が姉さんと一緒にソファで寝てんだ」などと詰問されていた。
キッチンから顔を出したマシューが、私とジョンにスープの入った器を差し出す。
「目覚めにアイントプフ(農夫のスープ)はいかが?」
中には薄切りにされたベーコンとソーセージ、トマトやジャガイモ、玉ねぎ、大豆が柔らかくなるまで煮込まれていた。
余った食材はすべてこのスープに投げ込まれたのだろう。
前日は早めに休んだので、メンバー全員が珍しく早起きだった。
全員がリビングに集まり、それぞれビールやらワインやらが入ったグラスが手に渡った。
ダニエルがこほん、と息をついて一言、乾杯の音頭をとる。
「ブラウンフェルスが俺たちにくれた、楽しいバカンスに」
乾杯。
全員がグラスを掲げた。
「ジェーン、後で包帯替えて」
「いいよ。今する?」
「うん。ここだとあれだし、2階で替えよう」
ジョンに誘われるままに、救急箱を持ち出して2階のソファーベッドの部屋へと上がった。
傷はさすがに塞がったが、その痕はまだ痛々しい。完治するまでにもうしばらくかかりそうだ。
「ジェーン、旅行楽しかった?」
「うん、楽しいよ」
「よかった。……途中、マイカと喧嘩しちゃって、ごめんな」
「……うん」
あまり悪びれているようには見えなかったが、そんなことは気にせず、お湯に浸したタオルで傷口の周りを軽く拭い、ガーゼを当てる。
「この家に地下があるって知ってる?」
「え?知らない」
包帯を巻き終わると、私の手を引っ張り階段を降りた。降りたその先にある扉を指さす。
「ここが地下への入口」
「へぇ、そうなんだ。物置だと思ってた」
ノブに手をかけたが、鍵が締まっているらしく、扉が開くことはなかった。
「ジェーン、地下には何があると思う?」
「えー?うーん……」
ジョンの問いかけにしばし考えを巡らせた。
そういえば、古い家に地下があるという話はつい最近聞いた。そうだ、皆で一緒にプレイしたTRPG、そのシナリオの中で地下にあったのは確か、
「屋敷の主の死体!」
ジョンはにっこり笑うだけで、その答えを教えてはくれなかった。
