前:その命の終わりに
「遠くに行きたい」
そろそろ日が昇り始めるという時間に、寝床の中でルチュがぽつりと呟いた。 直感的に、消えてなくなりたいんだろうな、と思った。 最近──規格外の古龍たちに関する任務に追われるようになってからというもの、そういった言動が多くなってきたように感じる。黒龍を討伐した後は特に顕著だ。
「どこに行く?」
彼女の頬にかかる髪を指で梳きながら問いかければ「どこでもいい」と返ってくる。
こんなことを言うのもなんだが、彼女は壊れかけている。新大陸にきてずっと一緒にいたからわかる。 崩壊に拍車をかけているのは、黒龍からはぎ取って作ったたあのおぞましい装備だ。恐ろしいほど身体に馴染んだ鎧が、じわじわと彼女の精神を蝕んでいるのだろう。そしてそれは俺も例外ではない。
「じゃあ結婚しよう。それで現大陸に帰ろう。ルチュがそうしたいならルチュの故郷に行くし、俺の故郷がいいなら連れて行く。知ってる人がいないところがいいなら、適当な場所に行こう」
逡巡ののち、困ったような、でも嬉しそうな、泣きそうな顔で「いいね。どこに行こうね」と言うのを見て、(ああ、自分たちはまだ完全には壊れていない)と安堵する気持ちが芽生えた。
“名誉除隊”という形で長い長い休暇をもらい、彼女の手を引いて船に乗った。
「またここに戻ってくる?」
「どうかな。でも、必要があれば星が俺たちを導くのかも」
